チームでタスク管理アプリを作った — タスクを終わらせるとキャラが育つ
6人チームのハッカソンでタスク管理アプリを作った。個人開発とは別の難しさがあったので、設計の話と一緒に残しておく。
何を作ったか
タスク管理アプリに育成ゲームを乗せたもの。
タスクを完了すると経験値とコインがもらえる。経験値が貯まるとキャラクターがレベルアップし、卵(egg)→ ひな(baby)→ 成鳥(adult)と姿が変わる。コインはショップで使えて、餌を買うと空腹度が回復する。
「タスク管理アプリは続かない」という問題に、続ける理由を外から与えるアプローチで答えている。
技術構成はこうなった。
frontend Vue 3 + Vite + Vuetify + Pinia + vue-router
backend FastAPI + PostgreSQL(生SQL)
AI Gemini API(タスクの自動振り分け)
連携 Google Calendar API
認証 JWT
機能を並べるとこうなる。
- タスクのCRUD、優先度・タグ・色・ピン留め
- キャラクター育成(レベル / ステージ / 空腹度)
- ショップと餌アイテム
- デイリーミッション(ログイン、タスク作成)
- Google カレンダー連携
- Gemini によるタスクの自動スケジューリング
私が主に触ったのはキャラクター周り(レベル・ステージ・通知・アニメーション)と、認証方式の変更だった。
報酬をコードに書かない
ゲーム要素を入れるとき、最初に決めたのが報酬の値をDBに置くことだった。
CREATE TABLE rewards (
id SERIAL PRIMARY KEY,
reward_type VARCHAR(20) NOT NULL, -- 'task' / 'daily_mission'
target_type VARCHAR(20), -- 'login' / 'create_task' / 'default'
exp INTEGER DEFAULT 0,
coin INTEGER DEFAULT 0,
description TEXT DEFAULT ''
);
INSERT INTO rewards (reward_type, target_type, exp, coin, description) VALUES
('daily_mission', 'login', 20, 10, 'ログインミッション'),
('daily_mission', 'create_task', 20, 10, 'タスク作成ミッション'),
('task', 'default', 10, 5, 'タスク完了報酬');
付与する側は、種類を指定して引くだけになる。
def grant_reward(user_id: int, reward_type: str, target_type: str = None):
reward = execute_query(
"SELECT exp, coin FROM rewards WHERE reward_type=%s AND target_type=%s",
(reward_type, target_type),
fetchone=True
)
...
# 経験値・コインを加算 → レベル判定 → ステージ判定
level_info = check_and_update_level(user_id)
stage_changed_to = check_and_update_stage(user_id)
これが効いたのはバランス調整のときだった。 ゲーム要素は「1タスク何EXPが気持ちいいか」を実際に触りながら決めるしかない。値をコードに書いていたら、調整のたびにコードを直してレビューを通してマージ、という手順を踏むことになる。SQLのUPDATE一発で変えられる形にしておいたおかげで、試行の回数を稼げた。
チーム開発だと特に効く。値の調整とロジックの実装を、別の人が同時に進められる。
通知を「1回だけ」出す
レベルアップしたときに「レベルが上がりました」と出したい。これが思ったより厄介だった。
APIはステートレスなので、サーバーは「このユーザーに通知を出したかどうか」を覚えていない。素直に実装すると、レベルアップ後にキャラクター情報を取得するたびに通知が出続ける。画面を開き直すたびに祝われることになる。
解決策として、どこまで通知したかをDBに持たせた。
CREATE TABLE characters (
...
level INTEGER DEFAULT 1,
last_notified_level INTEGER DEFAULT 1, -- 通知済みのレベル
last_notified_stage VARCHAR(20) DEFAULT 'egg' -- 通知済みのステージ
);
level と last_notified_level を比較して、差があるときだけ通知を出し、出したら last_notified_level を現在値に揃える。これで何度リロードしても通知は1回きりになる。
考え方としては、通知の既読管理をユーザーごとに1行持つのと同じだ。イベントの履歴テーブルを作る方法もあったが、必要なのは「最後にどこまで見せたか」だけなので、カラム2つで足りた。
ステージ(egg / baby / adult)にも同じ仕組みを用意した。レベルアップとステージアップは同時に起きることがあるので、それぞれ独立して管理する必要がある。
レベルの計算をテーブル駆動にする
レベルの必要経験値は level_requirements テーブルに持たせた。required_exp は累積経験値として定義している。
for row in levels:
lvl = int(row["level"])
req = int(row["required_exp"])
if total_exp >= req:
unlocked_level = lvl # このレベルには到達済み
curr_level_cumulative = req
else:
next_level_cumulative = req # 次の目標
break
累積で持つと、経験値バーの表示に必要な値がそのまま出る。「現在のレベル到達に必要だった累積」と「次のレベルに必要な累積」の差が、そのレベルの幅になる。
current_exp_in_level = total_exp - curr_cum # バーの現在値
exp_to_next = max(0, next_cum - total_exp) # あと何EXPか
各レベルで必要な差分を持つ設計だと、バー表示のたびに合計を計算し直すことになる。累積で持つ方が読み出しが素直だった。
なお、テーブルが空だった場合のフォールバックとして線形計算も書いてある。
if not levels:
unlocked_level = current_level
while total_exp >= (unlocked_level + 1) * 100:
unlocked_level += 1
保険としては悪くないが、フォールバックが動いたことに誰も気づけないのが弱い。DBの初期化を忘れた状態でも動いてしまうので、レベルの上がり方が本来の設計と違っていても分からない。ログを出すべきだった。
Cookie 認証をやめた
途中で認証方式を変えている。Cookie に JWT を入れる方式から、Authorization: Bearer ヘッダー方式へ。
main.py にその名残がある。
# JWT in header mode: do not use credentials (no cookies)
app.add_middleware(
CORSMiddleware,
allow_origins=[FRONTEND_URL],
allow_methods=["*"],
allow_headers=["*"],
allow_credentials=False # ← Cookie を使わない
)
理由はデプロイ構成にあった。フロントエンドとバックエンドを別ドメインに置く構成だったので、Cookie を使うと SameSite=None; Secure が必須になり、サードパーティ Cookie 扱いになる。ブラウザの設定や種類によっては届かない。ローカルでは動くのに本番で認証が通らない、という状態になりやすい。
ヘッダー方式なら、フロントが明示的に付けるので同一ドメインである必要がない。
def get_current_user(authorization: Optional[str] = Header(None)):
if not authorization:
raise HTTPException(status_code=401, detail="Not authenticated")
if not authorization.startswith("Bearer "):
raise HTTPException(status_code=401, detail="Invalid authorization header")
token = authorization.split(" ", 1)[1]
return verify_jwt(token)
config.py には COOKIE_SECURE と COOKIE_SAMESITE の設定が今も残っている。移行したときに消し忘れたものだ。使われていない設定が残っていると、後から読む人が「Cookieも使うのか?」と迷う。消すべきだった。
Gemini にスケジュールを立てさせる
チームで一番野心的だったのが、AI にタスクを日程に振り分けさせる機能だ。
Google カレンダーの予定を取得して、空き時間を計算して、Gemini にプロンプトとして渡す。返ってきた JSON をタスクとして登録する。
プロンプトの終盤はこうなっている。
- 上記のカレンダー予定と時間が重複する場合は、必ず別の空き時間を選択する
- 既存のカレンダー予定がある時間帯には絶対にタスクを配置しない
- 【最重要】上記の日別余裕度分析に従って、余裕度の高い日により多く、
余裕度の低い日には少なくタスクを配置する
- 均等配置は禁止:必ず余裕度「高」の日を優先し、「低」「不可」の日は避ける
「絶対に」「【最重要】」「禁止」と語気が強い。これは言うことを聞かせるために少しずつ言葉を足していった跡だ。指示を普通に書くと、AI は素直に均等配置をする。7日で14個なら1日2個ずつ、という配り方をしてしまう。空いている日に寄せてほしいのに。
コミット履歴にも「自動振り分けの精度を向上」というものが残っている。プロンプトを書き足しては試す、という作業を繰り返していた。
JSON が返ってこない問題
LLM に JSON を返させると、マークダウンのコードブロックで包まれて返ってくることがある。
response_text = response.text
# コードブロックがある場合は削除
if "```json" in response_text:
response_text = response_text.split("```json")[1].split("```")[0]
elif "```" in response_text:
response_text = response_text.split("```")[1].split("```")[0]
ai_plans = json.loads(response_text.strip())
「必ずJSONフォーマットで回答してください」と指示しても、コードブロックで囲んで返してくる。それが正しいマークダウンだからだ。結局、文字列処理で剥がしている。
パースに失敗したときは例外を握りつぶさず、success: False を返してフロントにエラーを見せる形にしてある。AI の出力は失敗する前提で組む必要があった。
カレンダー連携は落ちてもいい
Google カレンダーの取得部分はこうなっている。
try:
events = google_calendar_service.get_events_minimal(user_id, start_datetime, end_datetime)
except Exception as e:
print(f"Google Calendar API error (user_id: {user_id}): {e}")
events = []
例外を握って空リストで続行している。一般には避けたい書き方だが、ここでは意図的にそうしている。
カレンダー連携は補助機能で、繋いでいないユーザーもいる。API が落ちていたりトークンが切れていたりしても、タスク管理そのものは動くべきだ。「予定が取れなかったので、空き時間は最大とみなす」という劣化の仕方は妥当だと思う。
ログを出しているので、失敗が完全に見えなくなっているわけでもない。
チーム開発で崩れたところ
6人、300以上のコミット。ここからは反省の話になる。
init.sql が DROP TABLE で始まる
スキーマの共有方法として、db/init.sql を全員で使い回した。このファイルの冒頭がこうなっている。
DROP TABLE IF EXISTS user_items;
DROP TABLE IF EXISTS tasks CASCADE;
DROP TABLE IF EXISTS users CASCADE;
DROP TABLE IF EXISTS characters CASCADE;
...
README にも「データベース構造が変わった場合」として、このファイルを流し直す手順が書いてある。つまり誰かがカラムを1つ足すたびに、全員のローカルDBが消える。 テスト用に作ったタスクもキャラクターの育成状況も、毎回ゼロからやり直しになる。
Alembic のようなマイグレーションツールを入れるべきだった、というのが正論だ。ただ、限られた時間で6人が同時にスキーマを触る状況では、「常に最新の状態を1ファイルで再現できる」ことの価値も実際にあった。マイグレーションの順序が壊れて誰かの環境が動かなくなるより、全部消して作り直す方が速い場面はある。
短期のイベントなら許容範囲、続けるなら最初に直すべき箇所、という整理になると思う。
コミットメッセージが「調整」
自分の履歴を見返すと、こうなっている。
213aedf 調整
d3d137b 調整
788f118 調整
d9b6a00 調整
4aafbcf 調整
39bda60 調整
何を調整したのか分からない。CSSの微調整だったと思うが、確かめるには diff を開くしかない。手を動かすのに必死で、記録を残す余裕がなかった。
ちなみにチームの誰かが残した 祈り というコミットもある。デプロイ直前の緊張感が伝わってきて、これはこれで記録として悪くない。
環境変数のチェック漏れ
config.py に必須環境変数のチェックがある。
required_vars = ["DATABASE_URL", "SECRET_KEY", "GOOGLE_CLIENT_ID", "GOOGLE_CLIENT_SECRET"]
for var in required_vars:
if not globals().get(var):
raise EnvironmentError(f"{var} が設定されていません")
GEMINI_API_KEY が入っていない。 起動は成功するので、AI 機能を実際に呼んだ瞬間まで設定漏れに気づけない。しかもその機能が一番の目玉だった。
起動時に落ちてくれれば5秒で分かることが、デモの直前に発覚しかねない構造になっていた。
ファイルが肥大した
803 backend/api/ai_scheduler.py
868 frontend/src/views/CharacterView.vue
634 frontend/src/views/SettingView.vue
ai_scheduler.py の803行には、プロンプトの組み立て・Gemini呼び出し・レスポンスのパース・空き時間の分析が全部入っている。複数人で同じファイルを触るとコンフリクトの温床になる。
実際、途中で「AI自動振り分け部分を tasks から分割」というコミットがある。一度は分けたのだが、その先で再び太った形だ。
個人開発との違い
一人で作るときは、設計判断を頭の中だけで完結できる。チームだとそれがコードに現れていないと伝わらない。
報酬をDBのテーブルにしたのは、結果的にコミュニケーションのコストを下げた。「タスク完了は何EXPにする?」という議論が、コードを読まなくてもテーブルを見れば済む形になっていた。
逆に、Cookie方式をやめた判断は main.py の一行コメントにしか残っていない。
# JWT in header mode: do not use credentials (no cookies)
これを見て「なぜCookieをやめたのか」まで分かる人はいない。使われなくなった COOKIE_SECURE の設定だけが残っていて、むしろ混乱を招く状態だった。
判断は、コードか、せめてコミットメッセージに残さないと消える。 一人なら覚えていられるが、6人だと覚えているのは自分だけになる。